連載コラム「リビングに絵画を」

弊社スタッフが、「アイリスタ」に連載中のコラム「リビングに絵画を」をお届けします。版画を初歩からわかりやすく解説しています。ご参考にどうぞ。

■第一回:リトグラフ?シルクスクリーン?

街を歩いていると、ふとギャラリーの前にたちどまって、色とりどりの作品に見入ってしまった経験はありませんか?ここ10年くらい、ご家庭のリビングなどに絵画作品、とりわけ版画を飾るお宅が増えてまいりました。絵画というものが、美術館で鑑賞するたいそうな芸術作品から、自分家のリビングで楽しむ日常的な鑑賞品へと変わりつつある、過渡期だともいえるでしょう。

そこでよく聞く言葉が、リトグラフ、シルクスクリーン・・・等々の横文字です。私どもも、お客様からよく、「リトグラフって、版画のことなんでしょ?」と聞かれたりします。これは、半分はあたっていますが、半分は正確ではありません。というのも、リトグラフというのは、数ある版画作品の一技法に過ぎないからです。ですから、リトグラフ=版画、という風に覚えてしまうと、ちょっと語弊ががあるのですね。

そこで、このコラムの第一回目として、ご家庭に急速に普及し始めた版画の技法について 簡単にご説明いたしましょう。

まず、版画の技法を大きく分けますと、凸板、凹版、平版、孔版の4種類になります。これは、版画を刷るための版の形状の相違による分類で、版を横から見たときに、インクがつく部分が出っ張っていれば凸版、へっこんでいれば凹版、平らなら平版、孔がいていれば孔版、という単純な違いによります。

この分類でゆくと、私たちが小学校のときにたいていは彫らされた、木版画やリノリウム・カット(ゴムのような柔らかい版に彫った覚え、ありませんか?)は、彫った部分が白く、彫り残した部分が黒くなりますから、凸版ということになります。

それとは逆に、中学生や高校生になってもう少し専門的に、銅版画や、セルロイドの上にニードルで彫るドライポイント版画というのをやった経験のある方はわかるかと思いますが、これらの版画は、さまざまな手段で彫られた溝の中にインクを詰め、それ以外の平らな部分に乗ったインクを全部ふき取ってしまい、その後プレス機で強力な圧を加えることによって、溝の中のインクのみが刷り上げられる、というしくみで版が作られます。木版画等とはちょうど逆に、へこんだ部分にインクがはいって、それが線描部分となるため、おもに銅版画の技法を、凹版と呼びます。

この、へこんだ溝の部分をつくる作業にはさまざまなヴァリエーションがあり、まず銅版を硫酸で溶かして(腐食させて)線描する、エッチングという技法があります(この技法は、フランスではオー・フォルトと呼ばれています)。あるいは腐食などさせないで、直接銅版をニードルやビュランで彫ってゆく、ドライポイント(仏:ポワン・セーシュ)や、エングレーヴィングなどという技法もあります。他にもまだまだ松脂をつかったり、砂糖水を使ったりして様々なグレイトーンの階調を表現してゆく、アクアチントやメゾチント(仏:マニエール・ノワール)などというものもあり、銅版画の技法に関しては千差万別です。

このように、版画というジャンルは実は大変奥が深く、ある程度の専門家でないかぎり、一つの作品を見てそれがエッチングかリトグラフかを見分ける、というのは容易なことではありません。しかし、それぞれの技法にはそれぞれに特有な風合いがあり、アーティストがどのような表現方法を好むかによって、そのつど違った版画技法が選択されてゆくのです。

生涯に2000点を超える作品を作ったといわれるピカソも、銅板、リノカット(リノリウム・カット)、リトグラフ等々と、様々な技法へのあくなき挑戦者であり、また新たな版画技法を発明したりもしていたようです。ピカソの版画作品をたくさん見る機会がありましたら、それぞれの作品が、それぞれに異なった技法で表現されることによって、まったく違った様相を帯びることに驚かれるのではないでしょうか・・・

長くなりましたので、次回は平版・孔版に分類される、リトグラフとシルクスクリーンについてご説明いたしましょう。


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