連載コラム「リビングに絵画を」

弊社スタッフが、「アイリスタ」に連載中のコラム「リビングに絵画を」をお届けします。版画を初歩からわかりやすく解説しています。ご参考にどうぞ。

■第九回:「日本画」vs「洋画」

それでは、実際に絵画を飾る場所も決まり、ご予算も確保されたあと、具体的にどんな作品を選べばいいのでしょうか・・・

絵画作品にはいろいろなジャンルがあり、これまではほぼ版画に限定して話を進めて参りましたが、なかには「わたしは世の中にひとつしかないものを手に入れたい」と思っている方もいらっしゃるでしょう。
版画の場合にはほとんどが限定されているとはいえ、やはり複数枚数同じ作品が存在するのが前提ですが、それに比して俗に「本画」といわれる作品があります。画家みずからが描きおこした、文字通り世界にひとつしかない作品ですが、これは、日本では「日本画」と「洋画」というジャンルに大きく分けられます。

さて、この「日本画」と「洋画」にあたるような分類って、日本以外の国にも存在すると思われますか?この質問にお答えする前に、まず、日本画と洋画の説明を簡単にいたしましょう。
「日本画」「洋画」と分けられた場合、なんとなく富士山や鯉や牡丹なんかが描いてあったら「日本画」で、バラやお城や洋服を着た肖像画なんかだったら「洋画」だというふうに、漠然と考えている方も多いかもしれません。しかし、画廊でひとつの作品を「日本画」か「洋画」かと分ける場合、それは描かれた題材によるのではなく、描く画材のいいによるのだということをご存知だったでしょうか?

「日本画」の場合、描かれる紙は大抵の場合和紙で、描く画材は顔料と呼ばれる色のついた粉です。画材屋さんにゆくと、びんにはいった色とりどりの顔料が並べられていますが、この顔料とは、もともとは天然の岩石や貝殻をくだいて粉にした岩絵の具とよばれるものでした。
最近は金属や石油から化学合成して作られるものも多く出てきているようですが、いずれにしろ、その粉末状の顔料を膠(にかわ)という動物の皮脂からとられるたんぱく質 とまぜ、薄く塗り重ねてゆくことによってできるのが日本画です。

それに対して「洋画」の場合には、チューブにはいった油絵の具をテレピン油という独特の香りのする油で溶かして、通常はキャンバス地の上に塗り重ねて行きます。こちらは、高校の美術の時間やあるいは趣味でお描きになったことがある方も多いでしょう。

このようにして、「日本画」「洋画」という分類は、主に日本画の顔料を使うか、あるいは洋画の油絵の具を使うかという違いによってなされてきました。実際に日本の美大には、「日本画科」「油彩画科」というような振り分けがなされ、それぞれ別々の先生がそれぞれの専攻の学生さんたちを教えています。ただし、これは日本独自の分類であって、他の国ではそのようなジャンルわけは存在しないのです。

日本で「日本画」「洋画」という分類がいまだに明確に存在するのには、やはり、古来より伝統的な花鳥風月を重んじる日本画の世界に、明治以降、西洋からもたらされた油彩画のさまざまな技法が伝えられた、という事情によるところが大きいと思われます。日本的な幽玄の美を重んじる「日本画」というジャンルは、西洋絵画の影響を多分にうけつつも、その伝統的な手法と、なによりも顔料と和紙という素材を手放すことなく存続し続けました。
また一方「洋画」を信奉する画家たちは、旧来のしきたりに縛られることなく、洋行して高名な画家の弟子になったり、西洋で次々とおこる印象主義、立体主義等々の絵画技法を着々と吸収したりしつつ、油彩にこだわりながら日本における「洋画」の地位を保ってきました。他の国の場合、自国の伝統的絵画と他からの影響を受けたものは、通常は融合して明確なジャンルわけとはならないのですが、日本の場合は今日に至るまで明確に両者が存続する、稀有な事例といえるでしょう。

しかしながら、最近は「洋画」の画家も油絵の具に顔料を混ぜて使ったり、「日本画」を描く若手作家も今までにないジャンルの作品(たとえば、象とか猿とかをポップな色調で描いたり・・・)を発表するようにもなってきました。
こうして「日本画」「洋画」の境界線も次第にあいまいになってきているのは事実ですから、両者のボーダーラインが撤廃される日も近いのではないかというのが、大方の美術関係者の見方です。

では、「日本画」vs「洋画」といった場合、どちらに軍配が上がるかといえば、それはお客様のお好みによる、としかいいようがありません。もちろん、和室には「日本画」、応接間には「洋画」がしっくりくるのは当然ですが、モダンなコンクリートうちっぱなしのリビングに北斎の赤富士、なんていうのもすごくおもしろいんじゃないかと、個人的には思います。


・第一回
・第二回
・第三回
・第四回
・第五回
・第六回
・第七回
・第八回
・第九回
・第十回
・第十一回
・第十二回new!
版画オンラインショップ:DEPO.JP