連載コラム「リビングに絵画を」

弊社スタッフが、「アイリスタ」に連載中のコラム「リビングに絵画を」をお届けします。版画を初歩からわかりやすく解説しています。ご参考にどうぞ。

■第八回:版画を買うためには・・・[3]

さて、実際に版画作品を買う場合、前回はお値段のことに言及いたしましたが、今回は、では高ければ高いほどいい絵か?ということについて書きたいと思います。

お部屋に何か絵をひとつ・・・と考えたとき、やはり問題になるのは予算でしょう。絵画作品というのは、この世の中で一番高額になる可能性のあるもののひとつで、たとえば、同様に高いといわれている宝石でも1000万円クラスのものはめったにないけれど、絵画となればそれを超えるものはざらです。
バブルの時代には東山魁夷、平山郁夫といった日本の第一人者の人気作品は軒並み何千万円、あるいは億を超える価格で取引されていました。

前回お伝えしたピカソの「パイプを持つ少年」もオークションレコードとなり、1億ドル(約113億円!)で落札されたわけですが、はたしてこの作品は、万人にとって「いい絵」といえるでしょうか?

ここで勇気をもって告白いたしますと、わたしはピカソの作品があまり好きではないのです。美術の仕事をする前には、美術全集を前にしても「ピカソ」の巻を開くのは苦痛でしたし、いろいろな美術書でピカソの芸術性や革新性について口を極めて誉めそやしているのを読んでも、個人的に納得はできませんでした。
さすがに美術の仕事をするようになってから、否が応でもピカソの作品に触れずにはいられず、また扱っているうちにどうしても作品を鑑賞する必要にせまられますから、多くの作品を見ているうちにピカソの天才性、とりわけそのデッサン力と構成の確かさには舌を巻くようになりました。
しかし、だからといって「好きか?」と聞かれれば、正直申し上げて「あまり好きではない」と答えざるをえません。
しかし、これはあくまでもわたしの現時点での個人的な意見で、反論は多々あるとは思いますが、このように人の好みはさまざまですし、たとえばわたしの愛するパウル・クレーやアンドリュー・ワイエスなども他の人から言わせたら「愚の骨頂」というような感想もあるでしょう。

ですから、たとえばありえない想定ですが「パイプを持つ少年」をわたしがだれかからもらったとしても、わたしにとってはこの作品は家におきたいほど好きなものではありませんから、これはわたしにとってはあまり「いい絵」とはいえないでしょう。
わたしの考えで「いい絵」とは、本人が本当に気に入って家に飾りたい、と思うほどのものですから、100人いたら100点の「いい絵」があるのが正解だと思います。その中には、ルーヴル美術館の「モナリザ」のような値段がつかないほどの有名な絵もあるでしょうし、逆に自分の子供の描いたクレヨン画が最高の作品だ、と思う方もいらっしゃるでしょう。絵の個人的な評価は、それでいいのではないでしょうか・・・

ですから1万円には1万円なりの、100万円なら100万円なりの、1億円なら1億円なりの、その人にとっての「いい絵」が存在すると思います。また、その「いい絵」は年月や状況とともに変化したりもするでしょう。その人やその家族にとっての「いい絵」を予算の範囲内でお探しになるのがよろしいと思います。

しかしそこでひとつ、アドバイスを・・・
本当に好きだ!と思える絵にどこかで出合ったら、あまり値段で妥協しないでください。手が届かないほどの金額でしたら別ですが、予算オーバーだけれどちょっと無理すれば買える、というくらいの金額でしたら、ぜひちょっと無理して買うことをおすすめします。
なぜならひとつには本当に好きだと思える絵に出合えるのはまれであること、もうひとつは予算に余裕ができていざ買いに行ったときにはその絵は売れてしまっている可能性が高いこと、さらには、同じようなイメージの作品を後から探してもなかなかみつからないことです。
そして、逃した魚は大きいとばかりに、その後絵を探すにあたっては、どうしてもその好きだった作品のイメージにとらわれてしまい、他の作品になかなか満足できなくなってしまうことが多々あるのです。

版画ならば同じものがたくさんあるでしょう、とおっしゃるお客様もいらっしゃいますが、版元であればいざ知らず、ひとつの画廊が何十枚も同じ作品を仕入れていることはまれですし、すこし前に売り出されたものに関しては、版元でも売り切ってしまっている場合がほとんどです。事実、わたしも買おうとしていた作品を、タイミングを逸して手に入れそこなったことが何度かありました。

絵画作品は、数に限りがあるということをお忘れなく。
みなさんが画廊で出会う作品は、今日このときが一期一会かもしれませんよ。


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